第39回SEEDTIME!
甲状腺機能低下症の治療強化としてのクスリで…
本日は熊谷先生からの発表でした。2症例の発表でした。当院研修卒業生で、精神科医として働きつつ、現在は県の臨時医療施設でも勤務されている先生にもご参加いただきました!
1症例目は、甲状腺機能低下症の患者さんについて。以前から橋本病に対して内服治療されているが、フォロー採血で測定したTSHが異常高値だった。治療強化をしたものの、待っていたのは「大不穏」。
前医に問い合わせると、「以前も薬剤増量で不穏が強くなり抑えられず、その量にしていた」と・・。抗精神病薬を2剤増量し、事なきを得た・・。
不穏の対応はこれで良かったのか、甲状腺機能低下症の治療はどうすればよいのか・・・?という疑問でした。
2症例目は、施設入居中のがん末期患者さん。麻薬を内服可能かどうか状況確認しながら調整し、うまく疼痛管理ができた症例。
途中で食事摂取ができなくなってしまい、内服薬は適宜中止としながら、貼り薬の麻薬で対応。疼痛訴えなく永眠され、良い時間を過ごしていただけたかなと思っていた・・・が、よくよく振り返ってみると、2ヶ月前まで抗血栓薬が継続されていた。
もちろん内服できなければSkipと指示していたが、そもそも完全中止しても差し支えなかったのでは?
さらに派生して、ご年配の方に、どこまで急性疾患予防薬(抗血栓薬、スタチンなど)を使うのか・・・?という疑問でした。
【参加者からのコメント】
・不穏対応は、クエチアピン単剤をまず増量しながら経過を見るのも選択肢の一つ
:元々クエチアピンを使用しており、まだまだ増やせる状況であればまずそこから増量していくのがやりやすい。副作用である抗コリン作用に注意すれば、他の抗精神病薬よりは比較的安全に使用できる。かつ、複数の薬剤を同時に動かすと、どれが効いたのかわからなくなってしまう。ただ、たしかにクエチアピンは他の抗精神病薬と比較してしまえばマイルドな効き目ではあるので、あとは反応を見て多剤併用にすることはある。
・低活動型せん妄の除外が重要である
:精神科医としてよく「食事が進まない」と相談を受けるが、見落とされがちなのが低活動型せん妄。見分け方のコツとして、
・急性発症である(認知症の慢性経過ではなさそうである)
・日内変動がある
・注意欠陥がみられる
を意識している。注意欠陥については、もとのベース次第との比較を行う。話せる人なら、「会話がコロコロ変わっていかないか」、話が難しい人なら「100-7をどんどんしていってもらい、引っかかっていかないか」、それも難しい人なら「10から1を引いていき、引っかからないか」などから評価する。
低活動型せん妄であれば、もちろん環境整備が重要なのは間違いなく、加えて、原因となっていそうな薬剤の除外、日内リズムを作る(必要であればデジレル®、ベルソムラ®などの薬剤も用いる)、などが選択肢になる。
・薬剤をいつやめるか?は永遠のテーマ。ただ、「食事が取れなくなってきた」は考え直すタイミングの一つである
:例えば薬剤に起因した入院の際、誤嚥性肺炎の際など、何かしらのきっかけで見直すことが重要。例えばスタチン系などは「75歳以上の一次予防での脂質異常治療は効果が明らかでない」というガイドラインもあり、それを目安に中止するのも選択肢。ただ、実際にやめるかどうかは、もちろんリスクもあるので、ご本人ご家族としっかり相談が必要。
【全体コメント】
「高齢者の食思不振で、低活動型せん妄は見落とさない」
「薬剤の継続有無に関して一概に良い推奨は難しい。食事が進まない、入院での薬剤見直し、などのきっかけを見逃さず、ご本人ご家族としっかり相談して決定していく」
というところが重要かと考えました。低活動型せん妄のチェックは、たしかにルーティンにしてもよいほどだと気づきを得ました。多くの診療科が混じったカンファレンスになると、いろいろな視点からの評価ができて良いですね!特に精神科領域は困難症例と密接な関係があり、重要な視点です。
NEXT STEP
・高齢者の食思不振で、低活動型せん妄は見逃さない
・薬剤継続の有無に関して、定期的に見直す